2005年度講評
 
森村誠一

2005年宝石最優秀賞ノミネート作品

『困惑メール』
 メールの交換によって冷却した夫婦の関係が浮き彫りにされてくる。携帯に結ばれた現代人の人間関係を象徴する作品であるが、冷めた妻が夫の古い恋人にこだわる心理が不明である。困惑メールの発信者がすぐわかってしまう。

『あの日、未来の横丁にて』
 面白い発想で、未来の横丁に迷い込んだ兄妹がよく描けている。著名な先行作がなければ入選レベルである。

『フラミンゴ・サルーン』
 陰翳の濃い幻想的な作品。このタイプの作品はラストの書き込みが運命を決するが、死者に次々に邂逅する後段が駆け足となって、ヒロインの視点が曖昧になってしまった。

『ギャラリー・イン・トーキョー』
 SF、ホラー、パラレルワールド、タイムトラベル、各ジャンルを盛りだくさんにつめ込んだサービス精神満点な作品。面白さにおいてはトップであるが、先行作品の使い古された手口をモザイクのように合成していて、オリジナリティが不足している。選考ではなく、無心に読む限りはノミネート作品中最も面白い。

『パパ・バイオリン』
 年季が入った達者な文章と構成である。だが、バイオリンの説明に偏りすぎて、バイオリニストの乱調の原因や、肝心の音がほとんど描かれていない。パパ入魂のバイオリンの音を聞きたい。

『シロの交差』
 前作『北西の風』と同じ路線の作品で、確率性プロバビリティの犯罪を描いている。手馴れた文章と構成であるが、『パパ・バイオリン』同様、説明に偏っている。真相解明のきっかけとなる伏線が、探偵役の絵解きの後段に配されているのはアンフェアというよりは構成のミス。読者は真相に達するために探偵役と同じ情報をあたえられていなければならない。修復可能な作品である。

『ちぎられた羽根』 ※「小説宝石」掲載
 母を憎む少女が罠を仕掛け、次第に母親を陥れていくプロセスが怖い。さりげない文章で鳥肌が立つような場面を描く筆力は相当なもの。特に落ち度のない母を少女がなぜこのように憎むようになったか理由が不明であるのは惜しい。わずかな補筆によって完成度が高まる。選考委員一致して、本作品を推した。

 
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