雪煙

オーストリア・アルプスを訪れたとき、その鋭角的な山容に()せられた。スイス・アルプスの陰に隠れて、日本ではあまり知られていないが、その山容の秀麗さはスイス・アルプスを凌ぐ。最高峰グロスグロックナーは標高3798メートルで、富士山より少し高い。狭いオーストリア全土に3000メートル以上の高峰が100座以上あるそうである。その稜線を伝うアルペンハインウェイの景観は圧倒的であった。その山容も日本アルプスに相似しており、親しみやすい。盛夏でも時折吹雪が襲い、雪煙が稜線から舞い上がる。あまりにも完成された山容は、意図された人工の布置すら感じさせる。自然美の極致は人工美の極致にも通ずることを、私はそのとき知った。
山岳ミステリーはミステリーの一ジャンルとして確立されているが、おおむね山岳を舞台にしている。オーストリア・アルプスに舞い上がる雪煙を眺めながら、山岳と都会を対置したこの作品の構想が浮かんだ。

*光文社
1996.12
光文社文庫
2001.5
 

 
 
 
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