土魂の音色

〈飯怨/計勅/恩走/一針の稗史/魂なき暗殺者/魔剣/膿殺/剣菓/土の魂〉

『土の魂』
出かけるときはなんとなく億劫であったのが、帰って来るときは収穫が大きいという旅がある。旅は非日常であるがゆえに旅であり、通勤や業務上の出張は旅とは言わない。非日常への脱出は億劫なものである。
だが、非日常の風景の中で、未知との遭遇が多い。名寄での276番『笹の墓標』との出会いもそうであったが、飛騨高山へ旅した際、高山陣屋に寄った。一巡して立ち去ろうとしたとき、一団のグループを引き連れてやって来た案内者の名調子につられて、もう一度館内をめぐった。そこでわずか17歳で数万の農民一揆を率いて将軍にまで直訴し、我が身を犠牲にして飛騨三郡、二百八十三か村を救った善九郎の話を聞いた。善九郎の遺言は、彼の処刑時、その首を討った首切り役人が聞き取って代書した。その首切り役人の名前は留められていない。
無名の首切り役人が聞き取った善九郎の遺言、『土の魂』(175番に所収)はそのときすでに私の脳裡にでき上がった。

新潮社
1991.7
*角川書店(魔剣)
1994.1
新潮文庫
1994.9

 
 
 
このページはフレームの構成ページです。メニューが表示されない場合、こちらをクリックしてください。
『当サイトの内容一切の無断転載、使用を禁じます。』