終列車

終列車にはさまざま人生が凝縮されているように感じる。朝や昼の列車には、日常の鎖から解き放された旅行者たちの旅への期待が弾んでいるように見えるが、終列車や夜行列車には、そのような期待のかわりに人生の重荷を背負った旅人のため息が聞こえるような気がする。夜の錯覚かもしれないが、夜の旅には「北へ帰る旅人一人 涙流れてやまず」の歌詞のような感傷が流れている。長距離の夜行列車に比べて、都会の終電車にはアルコールの臭いと、疲労と 頽廃が滲んでいる。人生のため息よりも、一日刻みの生活の疲労が織り込まれているのである。
20代から30代にかけて、私はよく終列車を利用して山へ行った。新宿発11時55分、松本行の最終列車に乗ると、翌早朝、北アルプス山麓に到着する。見るとまもなく終列車の旅客を見ている間に、潜在意識にこの作品の下地が蓄えられたのかもしれない。この作品から『夜行列車』、短編『終電車』2本が派生した。

*光文社
1988.1
光文社文庫
1991.11
角川文庫
2001.12

 
 
 
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