黒い墜落機(ファントム)

まったく偶然の機会に、ある場所で出会った数人のグループ、それまでの前半生においてなんの関係もない人間たちが、共通の敵や、危険の前に必死の知恵をめぐらし、力を合わせて戦うという話は、私の好きな設定である。グループの出会った人たちは、前半生において傷つき、ドロップアウトした敗者である。共通の敵や困難に対する戦いが彼らに立ち直るきっかけをあたえる。
取り立ててなんの能も才もない平凡な人たちが力を合わせて人生のどん底から立ち上がる。隆車に歯向かう蟷螂の斧というたとえがあるが、強大な権力や組織に対して無力な市民はゴマメの歯ぎしりもできないのがほとんどである。蟷螂の斧が隆車に痛烈な一矢を報いる。それが小説の特権である。小説を書く舞台をあたえられて、その特権を使わぬという手はない。世の中には政治権力以外に、さまざまな権力がある。権力の種類や規模のちがいはあっても、権力の座にすわるということは、その権力の及ぶ範囲で神になるということである。神が黒いものを白いと言えば白くなる。神は傲岸不遜になりやすい。だが、神も権力の座をおりれば、ただの人間となる。この作品は神と人間の戦いとも言えよう。
そんな戦いを好んで書くのは、かつて私自身、末端サラリーマンとして組織の不条理に屈伏し、ゴマメの歯ぎしりすらできなかった恨みの捌け口を小説に向けているのかもしれない。私にとって小説はまさに私説である。その私説色が最も色濃く出ているのがこの作品である。

*光文社
1976.2
角川文庫
1978.9
光文社文庫
1991.10
*青樹社
1996.10
徳間文庫
1999.10
集英社
2005.9

 
 
 
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