単位の情熱

〈単位の情熱/鳩の目/企業人非人/電話魔/無能の情熱/虚無の標的/病蝕会社/社員廃棄院/侵略夫人/殺意の造型〉

ホテルに勤めていたころ、千余室の客室を一班構成六名、四班のローテーションで担当していた。私は森村班の班長であった。勤務を終えて帰るとき、上司に次班への引き継ぎを報告する。その際、上司は必ず次の出番は何人かと問うた。決してだれとだれが出るかとは聞かなかった。たとえば明日はフランスの団体が到着するから、フランス語の堪能なA君を出せとか、スペイン語のB君に出るようにとは言わなかった。つまり、私たちを個人としての能力を持った人間としてではなく、労働力の単位としてしか扱わなかった。私はいつもその悲哀と虚しさを噛みしめて退室した。
後日、書く舞台をあたえられた私は、かつての労働力の単位としての悲哀を、この作品に凝縮した。

サンケイ新聞社出版局
1973.5
徳間文庫
1998.12
 

 
 
 
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